患者と距離が近すぎる。「距離をとろうね」って言われるけど、具体的にどうしたらいいの?
こんにちは。精神科看護師のやみかんです。
精神科に配属された新人看護師さん(もしくは実習中の学生さん)は、
誰でも一度は「患者との距離」について、先輩や先生に言われたことがあるんじゃないでしょうか?
例えば「患者さんと距離が近いから、もう少し距離をとろうね」なーんて言われた経験ありませんか?
経験上、お人よしだったり仕事が丁寧な看護師さんに多くみられます。患者さんではパーソナリティ障害の方と接している場合によく起こります。
でも、距離をとるなんて、物理的に離れることは出来るけれど、先輩が言ってるのは多分心理的な意味。具体的にどうしたらいいのか、教えてもらう機会はあまりないかと思います。
今回は、具体的な「患者との距離の取り方」について説明していきたいと思います。
結論としては、出来ること・出来ないことをきちんと伝える、ということです。
時間外の対応をしない
患者さんに
今日、話をきいてほしいんだけど
と依頼されたとします。もちろん、話を聞くのも大事な仕事の一つ。
しかし、看護師には処置や与薬や入院の受け入れなど、いろんな業務があり中々時間がとれないこともありますよね。特に、新人看護師さんは覚えることも多く、時間の管理が難しいです。
そのため、「話を聞くけないまま終業時間になってしまった」ということが起こります…。
全ての業務が終わってから慌てて、
遅くなってごめんなさい、今からお話ききますね!
なんてこと、私もしょっちゅう繰り返しました。
他にも、患者さんの話が中々終わらなくて休憩時間が短くなってしまった、中々ナースステーションに帰れない、ってこともよくあります。先輩のように上手に話を切り上げる技術がないため、途中で話をきると患者さんとの関係に亀裂が入るのではないかと不安なのです。
もちろん、患者さんとの約束を守るのはとても大事なことです。傾聴と受容は大切って学校でも習いますものね。患者さんの言葉から得られる情報は看護上とても重要です。
しかし、一度時間外で対応してしまうと、今後も同じ対応を要求されます。「この前は仕事時間終わっても話聞いてくれたのに。なんで今日は聞いてくれないの」となるのです。これは自分を苦しめることにつながります。
例えば、話す約束をしていたのに時間を作れなかった。謝罪しまた後日とするのがベターですが、断るのが心苦しいという時は、
申し訳ないのですが、時間が過ぎてしまいました。約束したので、今日は5分だけでもいいですか?次からはきちんと昼間にお話し聞きますね。
という風に伝えてみるのはいかがでしょうか。
もし、先輩方の協力を得られる職場であれば、仕事が多く振り分けられたときに「患者さんと話す時間を作りたいです」という風にリーダーに伝えることも大切です。その時は「15時から10分ほどを予定しています」と具体的な時間を伝えると、リーダーも業務の調整がしやすいです。そして、患者さんにも「10分時間を作れました」とあらかじめ時間を伝えます。
この、あらかじめ時間を伝えるというのは、お話が中々終わらない方には特に重要です。私は、時にタイマーをセットして話を聞きに行くことがありました。最初に約束が出来ていれば、患者さんも納得して話を終わらせてくれるものです。
また、看護師との時間を繰り返し要求し、話が止まらない方に関しては、あらかじめ先輩に伝えて、10分後など適度な時間に先輩から呼び戻してもらうこともあります。
経験を積むにつれて、時間配分がうまくなり患者さんとお互いに満足するまでコミュニケーションの時間が取れるようになります。それまでは、苦労するかと思いますが、その苦労が良いコミュニケーション技術につながっていきます。がんばりどころですね。
業務外の仕事をしない
ちょっとお願いがあるんだけど…
新人看護師さんは話しかけやすいという理由から、患者に細かなお願い事をされる時があります。業務の中でしたら、もちろん対応しなければなりません。しかし、中には「これってやるべきなの?患者さんに頼まれたっていうことは他の先輩もやってるのかな?」と悩むようなことも出てきます。
よく悩むのは、買い物や、薬の説明、交換ノートや手紙のやりとりなどでしょうか。
そういう時は、まず過去のカルテを見て、同じことをやっているか確認。カルテに記載されていなければ、先輩に相談です。受け持ち(プライマリー)がいたらその人に聞くのがベスト。
精神科では治療のために細かなルール(枠組み)が決められていることが多いです。なので、親切心から行った行為が患者の治療を妨げる可能性があることに注意しましょう。
また、先ほどもお伝えしましたが、基本的に一度希望を叶えると次からも同じことを求められます。私たちも、例えばなじみのお店で一度割引やおまけをつけてもらったら、またやってくれないかなーと期待しちゃいます。さらに「新人さんはやってくれたのに、○○さんはやってくれない」と患者さんから一部の看護師への陰性感情を抱くことにもつながり、結果的にスタッフ間の関係も悪くなることがあります。
先輩に「こんなこと聞かないで」と怒られるかも、と心配になるかもしれませんが、「今までやったことがなくて、勝手にやってしまうのはいけないと思って」と理由を伝えましょう。
なので先輩への聞き方としては
○○さんに××を頼まれたのですけど、やっても大丈夫ですか?カルテに書いてなかったので今までどうしてたのか分からなくて…
と言ってみるのはいかがでしょうか。
何事も、わからなければ聞く姿勢が大事です。
関わりは公けにする
上の「業務外のことはしない」にも関連します。
患者さんは友達でも家族でもありません。
基本的に、どの病院でも患者さんとの個人的な連絡先の交換は禁止されていることが多いです。特に精神科ではトラブルに発展しやすいので、OKといっているところは無いと思います。
個人的な連絡先の交換、やりとりはトラブルにつながります。例えば、LINEで相談を受けたとして、こちらが返答をしますよね。で、
看護師さんの言うとおりにしたのに、解決しなかった!訴えてやる
となる可能性も否めません。また自分がその部署を離れたり、看護師を辞めたとしても患者さんが連絡を取ってくる可能性があります。
病院内で起きた業務中の出来事であれば、病院という組織に守ってもらうことができますが、個人的なやり取りで起きたものに関しては、誰にも守ってもらえません。
なので、個人的な連絡先の交換はおススメしません。
しかし、治療の一環で交換ノートをなどを用いる時があります。もしくは中々連絡がとれない患者のご家族と手紙で連絡をすることもあるでしょう。こういったものは看護師自身の身を守るために、医師の指示もしくは許可のもとで行う必要があります。看護師が必要だからと考えて独断で行うことは危険です。せめて、病棟やチームの中でカンファレンスをしたうえで実施すべきです。
そして、その内容を自分の中にとどめておくのではなく、記録に残すことも大事です。
一語一句正しく書く必要はありません。患者のプライベートに関することを丸裸にしろとは言いませんので、せめて概要だけでも他のスタッフに伝わるように残すことが大事です。そうしておけば、例えば看護師もしくは患者さんの担当が変わったり病棟が変わったとしても、どのような経緯でどのようなやり取りが行われたのかが分かります。同じ質の看護を提供できることにつながるのです。
トラブルを避け、良い治療を受けてもらうためにも、個人的な連絡の交換はさけ、記録はしっかりと残すことは大切です。
先輩の行動をまねる
先輩が行っている以上の看護をする時は注意です。
さきほども述べたように、患者さんには治療上必要なルール(枠組み)があります。優しさで枠組みを壊すことは本当の親切とは言えません。
患者さんが求めていることを、なぜ先輩がやっていないのか、一度立ち止まって考えることが大事です。治療の妨げになるのか、過去にトラブルがあったのか、お互いの安全を守れないからか。分からなければ先輩もしくは医師に聞きましょう。
その理由に納得がいかなければ、また別の話ですので、自分が正しいと思う患者さんにとって利益となる看護を提供します。実際、時代遅れの方法で患者と接している先輩もいます。そんな中で、根拠に基づいた先進的な看護を提供することは立派な役割です。
どこまで、先輩を見習うのか。どこから自分で行動していくのか、見極めが大事です。
悩んだ時は看護師の倫理的原則に基づいて考えてみましょう。
そして、新しい行動をするときは周りの協力が必要です。足並みをそろえることが重要だからです。周りの協力が得られないと、同じ看護が提供できず患者さんは混乱し治療の効果も上がりません。そして、実施している看護師側も精神的に辛いものです。
根拠が伴わなければ協力も得られませんので、しっかりと理由を説明してから行いましょう。プリセプター(もしくはチューター)を中心に先輩看護師を味方につけて、新しい風を吹かせましょうね。
心理的なアセスメントを行う
患者さんと距離が近くなる原因の一つに「転移」があります。
フロイトが提唱したもので、患者さんが看護師など医療者に向けて愛情もしくは憎しみを向けることです。逆に医療者が患者さんに向けてそのような感情を抱くこと(逆転移)があります。
例えば、自分の初恋の人にそっくりな人が現れたとして、なんとなく好意を抱くことってありませんか。もしくは、自分がお父さんを嫌いだったとして、同じ年ごろの男性が苦手ってこともありますよね。
過去に出会った人への感情が、いま出会った人と接するうちに呼び覚まされて、今の人間関係に投影されることが転移です。
特に「陽性転移」とは相手に対して依存・信頼・あこがれ・愛所などの感情を抱きます。
患者さんに良い印象を持たれるなら、一見良い関係に見えますよね。
しかし、看護師に向けられているものは患者の空想が投影されているのであり、治療的な信頼関係とは別物です。ここに看護師からも陽性の逆転移が加わってしまうと、お互いに理想化してしまい共存関係に陥る危険があります。うまくいくこともあるかもしれませんが、何かのきっかけで関係性が破綻すると元通りにするのはとても困難。治療に対しての不信感も強くなります。なので、近づきすぎない適度な関係を保つことが大事なのです。
他にも、パーソナリティ障害の患者さんに操作されてしまうことや訴えに振り回されることなど、精神科では悩みがさまざま。
これらに適切に対応するためには、患者さんの心理的アセスメントが重要です。
患者さんがどのような人間関係を構築してきて、今、私(看護者)に抱いている感情はどのようなものなのかをしっかりと見極めます。もちろん就職してすぐの新人さんが完璧なアセスメントをするのは難しい(そもそも心は数字で測れないので、完璧などというものは困難)です。なので医者や先輩看護師にアドバイスを求めながら良い関係をつくっていきましょう。
まとめ
距離が近いといわれた時には患者さんの感情に巻き込まれている可能性が大きいです。(たまに、過去の経歴から先輩が警戒しすぎていることもありますが)
自分の身を守りつつ、治療を妨げないことが大事です。
難しいときは頼れる先輩や医師に相談しましょう。
しんどくならないように、頑張りましょうね。
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